2006年 06月 11日
From Father Nafets |
原文:RTQ News: From Father Nafets
2005年12月12日月曜日にタウンクライヤー記す:
以下は、Sir Nafetsからの公の手紙です。
拝呈。
初めに、手紙を読んでくださればお察しいただけると思いますが、私は元気です。我らが良き友Sethはもぬけの殻の私を置き去りにしたので、完全に力が回復するには幾日かを要しましたが。私は残念なことに、この日橋の上で起こった出来事の大部分の記憶を取り戻せません。しかし重要なことは覚えています。則ち、Elefinは死に、Zexeは生きている -- ということを。
私は目を開けました。そこは真夜中でありながら、自室ではないように思われました。部屋を取り囲む松明の光が壁に映す影で、誰かがいることに気がつきました。痛みは私の頭を駆け巡り、筋通を立てて考えることをことごとく妨げていました。ややあって私の目は再び見え始め、眠っていない何者かに気づきました。私はシーツを引き、ベッドに腰掛けようとしましたが -- どうやってベッドに入ったかすら思い出せないのですが -- 体が動くことを拒みました。部屋はぐるぐると廻り始め、闇が再び私に押し寄せました。
あとで聞かされた話によると24時間の眠りののち、私は再び目覚めました。またもや、誰かがいるという胸騒ぎが私を襲いました。私は目を閉じたまま、聖なるエネルギーを我が身に満たしました。腰を掛けて当たりを見回すに足る力を与え賜え。そのとき私は、三人の人々とともに城の寝室にいたのです。
まさしく私の隣には -- 平静に落ち着いた私の本能が請け合って言うには、彼らは息をしていて、誰かが眠っているということ。私が彼に気づかなかったのは、たかが目の周りを取り巻く暗闇と、頭の中に立ち篭めていた暗雲せいだったのでしょうか。筋肉の山と見紛うその頂には短いブロンドの髪、あお向けに眠り、第一の警報で剣を握る構えの右手 -- Zexeが眠っていたのです。
この時、私の心に込み上げた気持ちを、何と言い表わすことができましょう。涙は壁の影を乱し、この瞬間に、私は我が身の安全を悟りました。Mirithの城にいるとわかったことよりも、Zexeのベッドの脇で膝まづいているのは他ならぬZara --彼の唯一無二の人-- であろうと思ったことよりも、Zexeがすぐ隣にいると知ったことが、何より私を安堵させたのです。
そのとき、私はその声を聞いたのです。
そのとき、ZaraはZexeを看病しているのではなく、第三の人物を看ているのだと気づいたのです。
そのとき、私はその囁き声を耳にしたのです。
"Omines Legion Premines Enel Tara Awerin"
古代の言葉。
失われた言葉。
禁じられた言葉。
苦痛、めまい、その他動くことから私を阻んだあらゆるものは、瞬時に消え去りました。すぐさま私は、物音をたてるのも構わず起き上がりました。素足を冷たい石床に降ろすことなど、Darkstarが横たわるベッドへの些細な障害にすぎませんでした。夜に馴染んだ私の目は即座に彼女の紫色の髪を見極め、記憶の中の忍び笑いが脳裏に蘇りました。
「Darkstar。」私がずいぶん速く回復した様子に驚きさえ示さぬZaraがいました。「Elefinとの戦いの時に、彼女はBlood Daggerで刺されたわ。彼女が今なお生きているのは奇跡だけど、それが彼女にとって良いことなのかわからないわ。」
わたしはZaraの話をぼんやり聞いていました。Darkstarが、私のすべての注意を集めていたのです。彼女は汗をかき、顔は松明の灯で光っていました。彼女の額に触れずとも、高熱が彼女を消耗させているのは明らかでした。けれども彼女の内部で交わされている闘いは、体の苦痛など比較にならないものでした。彼女の頭は、枕の上で慌ただしく動いていました。苦痛、恐怖、悲鳴の要求、すべて彼女の顔から読み取ることができました。そして、その囁きは‥‥
"Omines Legion Premines Enel Tara Awerin"
彼女は同じ言葉を何度も繰り替えしていました‥‥憔悴しながらも、まるで話すことが息をすることよりも重要であるかのごとく‥‥
「‥‥もう、次に何が起こるのかわらないわ。気の毒なDarkstar‥‥」私は、Zaraが話を続けていたことすら気づきませんでした。
「すまない、Zara。ちょっと意識がぼんやりしていた。なんと言ったのかな?」
「 Blood Daggerは犠牲者の魂を破壊するの。DarkstarはSethのパワーのおかげで命を繋いでいるだけよ。だけど‥‥彼女の両手を見て‥‥Nafets‥‥。Daggerはもうないわ。そしてそのDaggerと共に、おそらくDarkstarの魂の一部も消えてしまった‥‥。私‥‥私、もうわからないわ、Nafets‥‥。」
見たくはなかったものを、灯の光はよくも照らし出してくれました。Darkstarの両手は大きな黒班に覆われていました‥‥。魂の消耗でした。
言うまでもなく、この夜はもう眠れませんでした。
翌日は活力もなく朦朧として、ほとんど現実と縁を切っていました。私は、とある空虚な街を彷徨っていました。我々の国を襲う弊病のように、私の頭を叩き打つ炉の響き。しかしこの日、ある一つの響きは何よりも大きく、Great Hornよりもさらに喧しく鳴り響いたのです。古代の言葉‥‥。Darkstarはこの言語を知っていたのだろうか?彼女は答えられるだろうか? Belethがいなくなってから、私はすべての者に対して彼の地下室への入室を固く禁じています。すべてを放棄された時のままにしておきたかったのです。しかし今、これを改める時がきました。
私はまっすぐ城へと向かいました。この言語の翻訳を助け得るものを見つけるなら、ここしかないのです。私は、Belethの文書がBrigobaenやSethの助けを借りるよりもずっと迅速な手助けになると確信しました。私はまっすぐ、Belethの地下室へ通じる階段へと向かいました。思うに、Mattiasは私を止めようとしましたが、この時は私の邪魔をしている場合ではないと悟ったに違いありません。でなければ、ただ私が彼を無視したのでしょう。どのみち初めてのことではありませんが。
知らぬ間に、私はどうも無闇な速さで走っていたようで、鎧を着た男にぶつかって尻餅をついたおかげでそれに気づきました。
誰であろうと王宮聖職者用の通路に入ってくる輩には一言いってやるつもりで見上げると、再会を夢にまで見たかつての姿が -- Mirithの記章を誇らしく帯びた黒の鎧、右腰の鞘に納められた長く荘厳な剣、左手には兜を抱え、右手は私を立ち上がらせようと差し出している -- 私の前には、Mirithのロイヤルガードが立っていたのです。ロイヤルガードだとかいうのは、どうでもいいのです。彼はZexeだったのです。Zexeが帰ってきたのです。
Zexeはすでにかなりの重装備で、おそらくは訓練を再開しているらしく、私はもちろん心配しました。当然ながら私が最初にするべきことは、彼に鎧を脱いで体を休めてもらうことでした。しかしこの瞬間私の心にあふれた喜びは、他の何ごとにも勝るものでした。するとZexeは、まるで私の心が読めたかのように言ったのです。
「君は、君が思うよりはるかに長い時間意識不明の状態だったのだよ、Naf。それからSethと君がくれたこの体は素晴らしい贈り物だ。今まで以上の力強さを感じているよ。こっちへ、Naf。ついてきてくれ。見せてやろう。」
そしてしばらくの間、私は自らに課した仕事を忘れました。Darkstarと謎の古代言語のことは忘れました。Zexeは私を『Naf』と呼んでくれました。以前のように。そしてElefinは死にました‥‥。まるで何事もなかったかのようでした。けれども、城の訓練場で見た光景は、疑う余地もなく私に現実を思い出させたのです。
一般衛兵の一団がここに集まっていました。何かが異なっていました。私が訓練場に関心を寄せる機会など滅多にないことで -- 訓練中の衛兵がひどく怪我をして、私以外の聖職者が誰もいない時に呼ばれるくらいで -- それでも私には、この日は何かが異なっていたと言えるのです。Zexeが訓練場へ入った途端、すべてが静止しました。すべての者が彼を見上げ、あるものは敬礼し、あるものは頷き、そして訓練に戻ってゆきました。休息を必要とする者はそれをせず、訓練を終えたはずの者はさらに闘う力を見い出した様子で、全員が決意の下にありました。訓練場から出てからも茫然としたままでいた私の不意をついて、ZaraがZexeを抱きしめました。彼女は私を飛び退かせたことに気づいて謝りました。彼女はZexeの手を取り、着いてくるよう言いました。暫くの間、私は彼らを、彼らの喜びを、愛を、命の女神の祝福を眺めたままでおり、気持ちよく圧倒されました。安らぎの下に、決意の下に、愛がありました。そこには、本来の人の姿がありました。
Zexeが私を見てZaraの方をうなずき示したので、私のもの思いは途切れました。彼は、私が彼らの後に続かず一緒に行くかどうか迷っていたことに気づいたのです。間もなくZaraはZexeの手を離し、我々二人に先立って歩いてゆきました。人目につかない一角で、Morgans上院議院、Anderson、それとRobertsonが議論していました。回を重ねる激しいGlaiveの音が、Morgansをお手上げにしていました。彼女は皆に話をやめるよう頼む傍ら、皆からかなり離れたところで闘っている一組の者たち -- Valencia Falvo と Birek McCalla -- を見ていました。激闘に汗ばみながら、元Marali大将は手加減をするなとBirekに言い続けたのでしょう。彼は、彼女の根性に驚いたことでしょう。Birekの瞳と微笑みは思いやりと哀れみに満ちていましたし、私は、全力で闘うと言った時の彼の気持ちを汲み取りました。
ZaraはMorgans上院議院の肩をたたき、私たちがいる方を示しました。すぐさま、私のAndrisの旧友は両腕を広げて私の方へ歩いてきました。
「Nafets!また会えてとても嬉しいわ!本当に心配するところだったのよ。」手短かではあっても情熱的な(そして、やや骨が軋むほどの)包容の後、RobertsonとAndersonは我々に会釈し、次いで休憩する頃合だと見計らったBirekとValencia Falvoがそれにならいました。
そしてその場の私は、よその街、よその国の人々に囲まれていました。‥‥しかし居を構えているのはMirithなのです。司令官や上院議院にとって他に安全な住処はないが故に、ここで生活しているのです。同盟国 -- Marali侵略を阻止しなかった -- であるが故に、故郷から遠く離れて生活しているのです。最期の力をMirithに託して。もう、取り返しはつかないのです。物事は変わってしまいました。国には傷跡が残りました。我々の良心にも傷跡が残りました。決して癒えぬであろう傷が。Darkstarの抜け殻を、ゆっくりと侵してゆく闇のように深い傷が。そしてあの、古代の言葉。
「まもなくElefinの魔法は使えなくなると信じ‥‥Nafets、大丈夫か?」
「あ、あぁ、申し訳ありません、Robertson。わたしはちょっと‥まだ若干めまいがするようです。それに、ここは息が詰まって良くない。無礼はしたくないのですが‥‥」
「少し休息を取ってきたまえ、Nafets。ひどく青ざめた顔をして、心配になるよ。」
私は皆に軽く会釈し、立ち去りました。Birekは私の部屋まで付き添うと申し出ましたが、目下の話合いの方が大事だし、私は大したことはないと伝えました。もちろん嘘でした。
彼らの視界から出るや否や、私の体に力が戻りました。もう一度私は階段を駆け降り、Belethの地下室へ通じる扉が見えたところで足をとめました。激しく息が切れていて、扉は施錠すらされていなかったと気づくまでに二度ほど鍵を落としました。Belethの地下室の扉を開く度に起こる事象への覚悟を決め、私はゆっくりと扉を引きました。
あの感覚を説明しようとすれば時間の浪費もできましょうが、正確に表現する言葉が見出せません。蓄積された魔力が突如として解き放たれ、取るに足らぬ力を頂戴するのもまた愉快とばかりに一個の人体を目がけ、階段まで続く回廊を貫いて暴れ回る。いつものことさ、とBelethは言うでしょう。しかしこの時も、相違がありました。この時は、不快な臭いがありました。古びた臭い、空虚な臭い、積もった埃の臭い、Beleth不在の臭い。あの日以来、ここに入った者は誰もいませんでした。使用人さえも。
蝋燭の灯を頼りに、古代言語の翻訳の助けとなり得るものを求め、私はただちにBelethの個人的な蔵書(彼は、城の図書館で公開するよりもここに置くべきとしたのです)を調べました。その過程で一枚の紙が偶然床に落ち、それを押さえていた物 -- 一個の小石。部屋の一方へ転がりました -- が外れたのです。私は蝋燭の灯でその小さな物を見つけようと見当のつく所を照らし、それが転がっていったように思う所へと歩みを進めました。すぐ近くまで来て極めて驚いたことに、その小石は宙に浮いており、未知の様式の魔法で動かされていました。私がそれを調べようと近づくにつれ、それは私の周りを飛び始め、速度を増してゆきました。私は困惑し、警戒しました。私の中で、何かが立ち去れと叫んでいました。しかし私には、その場を離れることができませんでした。魂を奪われたのです。小石は私の周りで円を描きながら速度を増してゆき、何が起きているかわからぬ間に私を攻撃し始めました。
初撃はさほど痛みませんでした。しかしその遺物が速度を増しつつ私の顔に狙いを定めながら旋回を続けるにつれ、ここから逃れたほうが良いと悟りました。私は扉に向かって走りました。扉を閉めてこの部屋から永久に立ち去るのに間に合うよう祈りながら。小石のような小さな物にとって、扉などつまらぬ障害物に過ぎぬことに気づかずに。それが錠をすり抜けて来た時、蝋燭を手放して顔を守る術を与え賜うた命の女神に感謝します。私の眼を目がけて突進していた速度は、おそらく私を永遠の盲目にしたでしょう。すぐさま私は、どうにか自らの拳に小石を閉じ込め、握りしめました。小石は脈動し、私の掌を焼いているような感じがしましたが、自分がしてしまったことへの恐れに及ぶものではありませんでした。私は扉を開け、再び蝋燭に灯をともしました。堅く握られてずきずきと痛む私の右こぶし。まるで、小石が私に無意識にそれを解放させようとしているかのごとく、私の体を走り抜ける不思議な感覚。私は、小石が押さえていた一枚の紙を手に取って読みました。
残る記述は、別の色で書かれていました。
私は茫然と痛みを感じつつも、その指示に従って小石を再び封印しました。特別な注意をはらいながら、私は再びBelethの蔵書を調べ始め、そしてついに探していたものを見つけました。数時間の後、私は解を得た一文を手にしました。
"Omines Legion Premines Enel Tara Awerin"
"We are the Legion and I will burn Awerin"
Awerin‥‥誰のことだ。Awerinと呼ばれる人物に聞き覚えはない‥‥。どこかの場所を指すのだろうか‥‥。さらなる調査の確実性のため、私はまだこれから、日没前にDarkstarに会いたかったのです。再び地上に出た時にはすっかり日も暮れていて、昼食もとらずに午後のほとんどを地下室で過ごしていたのだと知りました。誰も私を探しに来ませんように、誰も私がいないことに気づきませんように、と祈る私がいました。Mattiasが私に向けた微笑みと会釈によって、とりあえず私が行方不明者にされていないことは確証されました。わたしはDarkstarを見つけようと、ひとりで城の寝室へ行きました。部屋はまったく明かりが灯されておらず、窓は閉じられていました。私は、彼女をこんなありさまで置き去りにした誰かに悪態をついて部屋の風通しをした後、Darkstarのすぐそばへ行って彼女の手を取りました。斑はすでに拡大しているようで、私が今までに見たどの斑よりも黒みを増していました。通例の黒魔術の進行よりも黒々と‥‥。それは‥‥。何か別の‥‥。
私の心の片隅に声がしました。「彼女は消されつつある‥‥。消えつつある‥‥。」
声を無視して、私は彼女の口元に耳を近寄せました。彼女は内なる精神と戦いながら、また囁いていました。
そして、そのとき私は、自分の過ちに気づいたのです。
最後の単語はAwerinではありませんでした。
その言葉はOberinでした。
2005年12月12日月曜日にタウンクライヤー記す:
以下は、Sir Nafetsからの公の手紙です。
拝呈。
初めに、手紙を読んでくださればお察しいただけると思いますが、私は元気です。我らが良き友Sethはもぬけの殻の私を置き去りにしたので、完全に力が回復するには幾日かを要しましたが。私は残念なことに、この日橋の上で起こった出来事の大部分の記憶を取り戻せません。しかし重要なことは覚えています。則ち、Elefinは死に、Zexeは生きている -- ということを。
私は目を開けました。そこは真夜中でありながら、自室ではないように思われました。部屋を取り囲む松明の光が壁に映す影で、誰かがいることに気がつきました。痛みは私の頭を駆け巡り、筋通を立てて考えることをことごとく妨げていました。ややあって私の目は再び見え始め、眠っていない何者かに気づきました。私はシーツを引き、ベッドに腰掛けようとしましたが -- どうやってベッドに入ったかすら思い出せないのですが -- 体が動くことを拒みました。部屋はぐるぐると廻り始め、闇が再び私に押し寄せました。
あとで聞かされた話によると24時間の眠りののち、私は再び目覚めました。またもや、誰かがいるという胸騒ぎが私を襲いました。私は目を閉じたまま、聖なるエネルギーを我が身に満たしました。腰を掛けて当たりを見回すに足る力を与え賜え。そのとき私は、三人の人々とともに城の寝室にいたのです。
まさしく私の隣には -- 平静に落ち着いた私の本能が請け合って言うには、彼らは息をしていて、誰かが眠っているということ。私が彼に気づかなかったのは、たかが目の周りを取り巻く暗闇と、頭の中に立ち篭めていた暗雲せいだったのでしょうか。筋肉の山と見紛うその頂には短いブロンドの髪、あお向けに眠り、第一の警報で剣を握る構えの右手 -- Zexeが眠っていたのです。
この時、私の心に込み上げた気持ちを、何と言い表わすことができましょう。涙は壁の影を乱し、この瞬間に、私は我が身の安全を悟りました。Mirithの城にいるとわかったことよりも、Zexeのベッドの脇で膝まづいているのは他ならぬZara --彼の唯一無二の人-- であろうと思ったことよりも、Zexeがすぐ隣にいると知ったことが、何より私を安堵させたのです。
そのとき、私はその声を聞いたのです。
そのとき、ZaraはZexeを看病しているのではなく、第三の人物を看ているのだと気づいたのです。
そのとき、私はその囁き声を耳にしたのです。
"Omines Legion Premines Enel Tara Awerin"
古代の言葉。
失われた言葉。
禁じられた言葉。
苦痛、めまい、その他動くことから私を阻んだあらゆるものは、瞬時に消え去りました。すぐさま私は、物音をたてるのも構わず起き上がりました。素足を冷たい石床に降ろすことなど、Darkstarが横たわるベッドへの些細な障害にすぎませんでした。夜に馴染んだ私の目は即座に彼女の紫色の髪を見極め、記憶の中の忍び笑いが脳裏に蘇りました。
「Darkstar。」私がずいぶん速く回復した様子に驚きさえ示さぬZaraがいました。「Elefinとの戦いの時に、彼女はBlood Daggerで刺されたわ。彼女が今なお生きているのは奇跡だけど、それが彼女にとって良いことなのかわからないわ。」
わたしはZaraの話をぼんやり聞いていました。Darkstarが、私のすべての注意を集めていたのです。彼女は汗をかき、顔は松明の灯で光っていました。彼女の額に触れずとも、高熱が彼女を消耗させているのは明らかでした。けれども彼女の内部で交わされている闘いは、体の苦痛など比較にならないものでした。彼女の頭は、枕の上で慌ただしく動いていました。苦痛、恐怖、悲鳴の要求、すべて彼女の顔から読み取ることができました。そして、その囁きは‥‥
"Omines Legion Premines Enel Tara Awerin"
彼女は同じ言葉を何度も繰り替えしていました‥‥憔悴しながらも、まるで話すことが息をすることよりも重要であるかのごとく‥‥
「‥‥もう、次に何が起こるのかわらないわ。気の毒なDarkstar‥‥」私は、Zaraが話を続けていたことすら気づきませんでした。
「すまない、Zara。ちょっと意識がぼんやりしていた。なんと言ったのかな?」
「 Blood Daggerは犠牲者の魂を破壊するの。DarkstarはSethのパワーのおかげで命を繋いでいるだけよ。だけど‥‥彼女の両手を見て‥‥Nafets‥‥。Daggerはもうないわ。そしてそのDaggerと共に、おそらくDarkstarの魂の一部も消えてしまった‥‥。私‥‥私、もうわからないわ、Nafets‥‥。」
見たくはなかったものを、灯の光はよくも照らし出してくれました。Darkstarの両手は大きな黒班に覆われていました‥‥。魂の消耗でした。
言うまでもなく、この夜はもう眠れませんでした。
翌日は活力もなく朦朧として、ほとんど現実と縁を切っていました。私は、とある空虚な街を彷徨っていました。我々の国を襲う弊病のように、私の頭を叩き打つ炉の響き。しかしこの日、ある一つの響きは何よりも大きく、Great Hornよりもさらに喧しく鳴り響いたのです。古代の言葉‥‥。Darkstarはこの言語を知っていたのだろうか?彼女は答えられるだろうか? Belethがいなくなってから、私はすべての者に対して彼の地下室への入室を固く禁じています。すべてを放棄された時のままにしておきたかったのです。しかし今、これを改める時がきました。
私はまっすぐ城へと向かいました。この言語の翻訳を助け得るものを見つけるなら、ここしかないのです。私は、Belethの文書がBrigobaenやSethの助けを借りるよりもずっと迅速な手助けになると確信しました。私はまっすぐ、Belethの地下室へ通じる階段へと向かいました。思うに、Mattiasは私を止めようとしましたが、この時は私の邪魔をしている場合ではないと悟ったに違いありません。でなければ、ただ私が彼を無視したのでしょう。どのみち初めてのことではありませんが。
知らぬ間に、私はどうも無闇な速さで走っていたようで、鎧を着た男にぶつかって尻餅をついたおかげでそれに気づきました。
誰であろうと王宮聖職者用の通路に入ってくる輩には一言いってやるつもりで見上げると、再会を夢にまで見たかつての姿が -- Mirithの記章を誇らしく帯びた黒の鎧、右腰の鞘に納められた長く荘厳な剣、左手には兜を抱え、右手は私を立ち上がらせようと差し出している -- 私の前には、Mirithのロイヤルガードが立っていたのです。ロイヤルガードだとかいうのは、どうでもいいのです。彼はZexeだったのです。Zexeが帰ってきたのです。
Zexeはすでにかなりの重装備で、おそらくは訓練を再開しているらしく、私はもちろん心配しました。当然ながら私が最初にするべきことは、彼に鎧を脱いで体を休めてもらうことでした。しかしこの瞬間私の心にあふれた喜びは、他の何ごとにも勝るものでした。するとZexeは、まるで私の心が読めたかのように言ったのです。
「君は、君が思うよりはるかに長い時間意識不明の状態だったのだよ、Naf。それからSethと君がくれたこの体は素晴らしい贈り物だ。今まで以上の力強さを感じているよ。こっちへ、Naf。ついてきてくれ。見せてやろう。」
そしてしばらくの間、私は自らに課した仕事を忘れました。Darkstarと謎の古代言語のことは忘れました。Zexeは私を『Naf』と呼んでくれました。以前のように。そしてElefinは死にました‥‥。まるで何事もなかったかのようでした。けれども、城の訓練場で見た光景は、疑う余地もなく私に現実を思い出させたのです。
一般衛兵の一団がここに集まっていました。何かが異なっていました。私が訓練場に関心を寄せる機会など滅多にないことで -- 訓練中の衛兵がひどく怪我をして、私以外の聖職者が誰もいない時に呼ばれるくらいで -- それでも私には、この日は何かが異なっていたと言えるのです。Zexeが訓練場へ入った途端、すべてが静止しました。すべての者が彼を見上げ、あるものは敬礼し、あるものは頷き、そして訓練に戻ってゆきました。休息を必要とする者はそれをせず、訓練を終えたはずの者はさらに闘う力を見い出した様子で、全員が決意の下にありました。訓練場から出てからも茫然としたままでいた私の不意をついて、ZaraがZexeを抱きしめました。彼女は私を飛び退かせたことに気づいて謝りました。彼女はZexeの手を取り、着いてくるよう言いました。暫くの間、私は彼らを、彼らの喜びを、愛を、命の女神の祝福を眺めたままでおり、気持ちよく圧倒されました。安らぎの下に、決意の下に、愛がありました。そこには、本来の人の姿がありました。
Zexeが私を見てZaraの方をうなずき示したので、私のもの思いは途切れました。彼は、私が彼らの後に続かず一緒に行くかどうか迷っていたことに気づいたのです。間もなくZaraはZexeの手を離し、我々二人に先立って歩いてゆきました。人目につかない一角で、Morgans上院議院、Anderson、それとRobertsonが議論していました。回を重ねる激しいGlaiveの音が、Morgansをお手上げにしていました。彼女は皆に話をやめるよう頼む傍ら、皆からかなり離れたところで闘っている一組の者たち -- Valencia Falvo と Birek McCalla -- を見ていました。激闘に汗ばみながら、元Marali大将は手加減をするなとBirekに言い続けたのでしょう。彼は、彼女の根性に驚いたことでしょう。Birekの瞳と微笑みは思いやりと哀れみに満ちていましたし、私は、全力で闘うと言った時の彼の気持ちを汲み取りました。
ZaraはMorgans上院議院の肩をたたき、私たちがいる方を示しました。すぐさま、私のAndrisの旧友は両腕を広げて私の方へ歩いてきました。
「Nafets!また会えてとても嬉しいわ!本当に心配するところだったのよ。」手短かではあっても情熱的な(そして、やや骨が軋むほどの)包容の後、RobertsonとAndersonは我々に会釈し、次いで休憩する頃合だと見計らったBirekとValencia Falvoがそれにならいました。
そしてその場の私は、よその街、よその国の人々に囲まれていました。‥‥しかし居を構えているのはMirithなのです。司令官や上院議院にとって他に安全な住処はないが故に、ここで生活しているのです。同盟国 -- Marali侵略を阻止しなかった -- であるが故に、故郷から遠く離れて生活しているのです。最期の力をMirithに託して。もう、取り返しはつかないのです。物事は変わってしまいました。国には傷跡が残りました。我々の良心にも傷跡が残りました。決して癒えぬであろう傷が。Darkstarの抜け殻を、ゆっくりと侵してゆく闇のように深い傷が。そしてあの、古代の言葉。
「まもなくElefinの魔法は使えなくなると信じ‥‥Nafets、大丈夫か?」
「あ、あぁ、申し訳ありません、Robertson。わたしはちょっと‥まだ若干めまいがするようです。それに、ここは息が詰まって良くない。無礼はしたくないのですが‥‥」
「少し休息を取ってきたまえ、Nafets。ひどく青ざめた顔をして、心配になるよ。」
私は皆に軽く会釈し、立ち去りました。Birekは私の部屋まで付き添うと申し出ましたが、目下の話合いの方が大事だし、私は大したことはないと伝えました。もちろん嘘でした。
彼らの視界から出るや否や、私の体に力が戻りました。もう一度私は階段を駆け降り、Belethの地下室へ通じる扉が見えたところで足をとめました。激しく息が切れていて、扉は施錠すらされていなかったと気づくまでに二度ほど鍵を落としました。Belethの地下室の扉を開く度に起こる事象への覚悟を決め、私はゆっくりと扉を引きました。
あの感覚を説明しようとすれば時間の浪費もできましょうが、正確に表現する言葉が見出せません。蓄積された魔力が突如として解き放たれ、取るに足らぬ力を頂戴するのもまた愉快とばかりに一個の人体を目がけ、階段まで続く回廊を貫いて暴れ回る。いつものことさ、とBelethは言うでしょう。しかしこの時も、相違がありました。この時は、不快な臭いがありました。古びた臭い、空虚な臭い、積もった埃の臭い、Beleth不在の臭い。あの日以来、ここに入った者は誰もいませんでした。使用人さえも。
蝋燭の灯を頼りに、古代言語の翻訳の助けとなり得るものを求め、私はただちにBelethの個人的な蔵書(彼は、城の図書館で公開するよりもここに置くべきとしたのです)を調べました。その過程で一枚の紙が偶然床に落ち、それを押さえていた物 -- 一個の小石。部屋の一方へ転がりました -- が外れたのです。私は蝋燭の灯でその小さな物を見つけようと見当のつく所を照らし、それが転がっていったように思う所へと歩みを進めました。すぐ近くまで来て極めて驚いたことに、その小石は宙に浮いており、未知の様式の魔法で動かされていました。私がそれを調べようと近づくにつれ、それは私の周りを飛び始め、速度を増してゆきました。私は困惑し、警戒しました。私の中で、何かが立ち去れと叫んでいました。しかし私には、その場を離れることができませんでした。魂を奪われたのです。小石は私の周りで円を描きながら速度を増してゆき、何が起きているかわからぬ間に私を攻撃し始めました。
初撃はさほど痛みませんでした。しかしその遺物が速度を増しつつ私の顔に狙いを定めながら旋回を続けるにつれ、ここから逃れたほうが良いと悟りました。私は扉に向かって走りました。扉を閉めてこの部屋から永久に立ち去るのに間に合うよう祈りながら。小石のような小さな物にとって、扉などつまらぬ障害物に過ぎぬことに気づかずに。それが錠をすり抜けて来た時、蝋燭を手放して顔を守る術を与え賜うた命の女神に感謝します。私の眼を目がけて突進していた速度は、おそらく私を永遠の盲目にしたでしょう。すぐさま私は、どうにか自らの拳に小石を閉じ込め、握りしめました。小石は脈動し、私の掌を焼いているような感じがしましたが、自分がしてしまったことへの恐れに及ぶものではありませんでした。私は扉を開け、再び蝋燭に灯をともしました。堅く握られてずきずきと痛む私の右こぶし。まるで、小石が私に無意識にそれを解放させようとしているかのごとく、私の体を走り抜ける不思議な感覚。私は、小石が押さえていた一枚の紙を手に取って読みました。
私はMcCallaに、Andrisのゲートの一部を採取してくるよう依頼した。そして彼が持ち帰るこのとできたものは、例の小石だけだった。彼は、どれだけ激しく叩こうともそれ以上崩れ落ちそうになく、傭兵たちに警戒される前に立ち去らねばならなかった、と言った。見つかればAndrisに捕まる。
残る記述は、別の色で書かれていました。
あれは、途方もない物だ。それはまるで、それ自身の意志を持っている!その上、攻撃性も。最早、これがゲートを封鎖している黒魔術でないことに疑いの余地はない。それが何であろうと遥かに強力だ。そして、この小石のことを思案するに、私の心に浮かぶ名はただ一つ。Elefin。彼女がAndrisのゲートを封鎖した人物であるなら、ゲートを爆破したことを忘れよ。ElefinがAndrisにいるのであれば、Birekを解放したことを忘れよ。ElefinとLancasterが同盟を結んでいるのを疑問に思うが、しかし、そのことはこの場合重要ではない。私は、小石を解き放ってこの書を読んでいるすべての者に警告している。書の末尾に私が描いたルーン文字の上に小石を戻し、厳重に封印したまえ。この魔術は危険であり、呪術者の死後もなお続く。いかなる魔法も永久には続かず、いつかこの遺物も無害になるであろう。しかしあなたが私でなければ、-- あなたはこれを読んでいるのだから、私でないことは明らかだ -- その小石はあなたの手にあまる危険物とみなしなさい。
私は茫然と痛みを感じつつも、その指示に従って小石を再び封印しました。特別な注意をはらいながら、私は再びBelethの蔵書を調べ始め、そしてついに探していたものを見つけました。数時間の後、私は解を得た一文を手にしました。
"Omines Legion Premines Enel Tara Awerin"
"We are the Legion and I will burn Awerin"
Awerin‥‥誰のことだ。Awerinと呼ばれる人物に聞き覚えはない‥‥。どこかの場所を指すのだろうか‥‥。さらなる調査の確実性のため、私はまだこれから、日没前にDarkstarに会いたかったのです。再び地上に出た時にはすっかり日も暮れていて、昼食もとらずに午後のほとんどを地下室で過ごしていたのだと知りました。誰も私を探しに来ませんように、誰も私がいないことに気づきませんように、と祈る私がいました。Mattiasが私に向けた微笑みと会釈によって、とりあえず私が行方不明者にされていないことは確証されました。わたしはDarkstarを見つけようと、ひとりで城の寝室へ行きました。部屋はまったく明かりが灯されておらず、窓は閉じられていました。私は、彼女をこんなありさまで置き去りにした誰かに悪態をついて部屋の風通しをした後、Darkstarのすぐそばへ行って彼女の手を取りました。斑はすでに拡大しているようで、私が今までに見たどの斑よりも黒みを増していました。通例の黒魔術の進行よりも黒々と‥‥。それは‥‥。何か別の‥‥。
私の心の片隅に声がしました。「彼女は消されつつある‥‥。消えつつある‥‥。」
声を無視して、私は彼女の口元に耳を近寄せました。彼女は内なる精神と戦いながら、また囁いていました。
そして、そのとき私は、自分の過ちに気づいたのです。
最後の単語はAwerinではありませんでした。
その言葉はOberinでした。
by Lou_Bene
| 2006-06-11 16:23
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